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RAGとは?生成AIの嘘を防ぐ仕組みを初心者向けに解説!活用事例と導入のコツ

更新: 8/2
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RAGとは?生成AIの嘘を防ぐ仕組みを初心者向けに解説!活用事例と導入のコツ

「生成AIが平気で嘘をつく…」そんなお悩み、ありませんか?RAGが解決します!

「ChatGPTなどの生成AIを業務で使ってみたけれど、時々、もっともらしい嘘の情報を回答してきて困る…」 「社内のマニュアルや最新の業界情報を踏まえた回答が欲しいのに、一般的な答えしか返ってこない…」 「自社の機密情報をAIに学習させるのは、セキュリティ的に不安だ…」

生成AIの活用を進める中で、あなたも今、このような壁にぶつかってはいないでしょうか?生成AIは非常に強力なツールですが、その万能さに期待するほど、現実とのギャップに戸惑うことも少なくありません。

特に、AIが事実に基づかない情報を生成する「ハルシネーション」は、ビジネス利用において致命的な問題になりかねません。


あなたは今、こんなことで悩んでいませんか?

  • 生成AIの回答が正しいか、毎回ファクトチェックするのが大変。
  • 社内の専門的な質問には、AIが全く答えられない。
  • AI導入を検討しているが、情報漏洩のリスクが怖くて踏み出せない。
  • 話題の「RAG」という言葉を聞くけど、何がすごいのか、どう役立つのかよく分からない。

もし一つでも当てはまるなら、この記事はきっとあなたの助けになります。なぜなら、これらの悩みの多くは「RAG(ラグ)」という技術で解決できる可能性があるからです。


結論:RAGは、AIに「カンニングペーパー」を渡して賢くする技術です

はい、RAGはあなたの会社で活用できます。そして、AIの精度と信頼性を大きく向上させることが可能です。

RAGをとても簡単に説明するなら、それは**「大規模言語モデル(LLM)という頭脳明晰な学生に、試験の時だけ特別な『カンニングペーパー(参照資料)』の持ち込みを許可する」**ような技術です。

この「カンニングペーパー」には、インターネット上の最新情報や、あなたの会社の社内規定、顧客情報、技術マニュアルなどを記載できます。AIは、質問された際にこのペーパーを参照しながら回答を作成するため、「知ったかぶり」をせず、根拠に基づいた正確な答えを生成できるようになります。

この記事では、そんなRAGの仕組みからメリット、具体的な活用事例、そして導入の際の注意点まで、専門的な知識がない方にも分かりやすく、丁寧にご紹介していきます。読み終える頃には、あなたの会社でAIを安全かつ効果的に活用するための、具体的なイメージが湧いているはずです。


そもそもRAG(検索拡張生成)とは?基本の「き」を理解しよう

まずは、RAGという技術の基本的な概念から押さえていきましょう。

RAGは「Retrieval-Augmented Generation」の略

RAG(ラグ)は、**「Retrieval-Augmented Generation」**の頭文字を取った言葉で、日本語では「検索拡張生成」と訳されます。

  • Retrieval(検索): 関連する情報を探し出すこと。
  • Augmented(拡張): 探し出した情報で元の情報を強化(パワーアップ)すること。
  • Generation(生成): 強化された情報をもとに、回答の文章を作り出すこと。

つまり、ただAIに答えさせるのではなく、**「まず関連情報を検索し、その情報でAIを賢くしてから、回答を生成する」**という一連の流れを体系化したアプローチがRAGなのです。


なぜ今、RAGが必要とされているの?LLMの2つの弱点

ChatGPTをはじめとする生成AIの中核技術は「大規模言語モデル(LLM)」と呼ばれます。このLLMは非常に高性能ですが、ビジネスで活用するには無視できない、2つの大きな弱点を抱えています。

弱点①:知識が古い(知識のカットオフ)

LLMは、開発された時点までのデータで学習しています。そのため、それ以降に起きた出来事や新しい情報については基本的に知りません。これを「知識のカットオフ」と呼びます。

例えば、「昨日のニュースについて要約して」と頼んでも、学習データに含まれていないため答えることができません。これでは、日々情報が更新されるビジネスの世界では使い物になりませんね。

弱点②:平気で嘘をつく(ハルシネーション)

LLMは、確率的に「それらしい」単語を繋げて文章を生成する仕組みです。そのため、知らないことでも、あたかも事実であるかのように、もっともらしい嘘の情報を生成してしまうことがあります。これが「ハルシネーション(幻覚)」です。

社内規定について質問した際に、存在しないルールを自信満々に回答されたら、業務に大きな支障をきたす危険性があります。文部科学省も、教育現場での利用において、このハルシネーションのリスクを指摘しています。

生成AIは、もっともらしい誤情報や、文脈に合わない回答を生成する場合があることに留意が必要です。

出典: 文部科学省 「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」

RAGは、これら2つの弱点を補うための、非常に有効な解決策として期待されています。外部の最新かつ正確な情報を都度参照させることで、知識の古さをカバーし、ハルシネーションを大幅に抑制することができるのです。


国の機関もRAGの有効性に着目

RAGの重要性は、国の研究機関や行政機関からも注目されています。例えば、金融庁のディスカッションペーパーでは、RAGが回答の精度と信頼性を向上させる手法として明確に言及されています。

RAG は、言語モデルと情報検索を組み合わせて応答を生成する手法である。 外部データベースから最新の情報を取得し、モデルの応答に組み込むことで、回答の精度と信 頼性が向上する。

出典: 金融庁 金融研究センター 「「金融領域における大規模言語モデルの評価の進展と Retrieval-Augmented Gene...

このように、RAGは単なる流行りの技術ではなく、AIを社会で安全に活用していくための基盤技術として認識されつつあるのです。


RAGはどんな仕組みで動いているの?3ステップで簡単解説

では、RAGは具体的にどのようなプロセスで回答を生成しているのでしょうか。ここでは、その流れを3つのステップに分けて、図解と共に見ていきましょう。

【ステップ1:検索(Retrieval)】質問に関連する情報を探す

ユーザーが「A製品の最新の納期について教えて」と質問したとします。

まずRAGシステムは、LLMに質問を渡す前に、あらかじめ用意された**知識の保管庫(ナレッジベース)**の中から、この質問に関連する情報を探し出します。この保管庫には、社内の販売管理システムのデータや、製品仕様書、過去のメールのやり取りなどが格納されています。

このとき、単なるキーワード検索ではなく、「ベクトル検索」という技術が使われるのが一般的です。これは、単語や文章の意味・文脈を数値(ベクトル)に変換し、意味が近いものを探し出す高度な検索方法です。これにより、「納期」という言葉だけでなく、「出荷日」「デリバリー」「納品予定」といった関連する情報も見つけ出すことができます。


【ステップ2:拡張(Augmented)】質問と情報を合体させる

次に、ステップ1で見つけ出した関連情報(例:「A製品の最新納期は2025年9月15日です」というデータ)を、元の質問文と合体させます。

この合体させたものを「プロンプト」と呼びます。プロンプトは、LLMに対する「指示書」のようなものです。RAGにおけるプロンプトは、以下のような構成になります。

【指示】 以下の『参照情報』だけを使って、ユーザーの『質問』に答えてください。

【参照情報】 A製品の最新納期は2025年9月15日です。

【質問】 A製品の最新の納期について教えて

このように、参照すべき情報を明確に指示することで、LLMが勝手な想像で答えを作ってしまうのを防ぎます。


【ステップ3:生成(Generation)】合体させた情報をもとに回答を作る

最後に、ステップ2で作成したプロンプトをLLMに渡します。

LLMは、指示通りに「参照情報」の中から答えを探し出し、自然な文章で回答を生成します。

【AIの回答】 A製品の最新の納期は、2025年9月15日です。

これがRAGの一連の流れです。この仕組みにより、AIは常に根拠のある、正確な情報に基づいて回答を生成することができるようになるのです。


RAGとファインチューニング、何が違うの?どっちを選ぶべき?

AIの精度を上げるもう一つの代表的な手法に「ファインチューニング」があります。RAGとファインチューニングはよく比較されますが、目的や特性が全く異なります。どちらが良い・悪いではなく、目的に応じて使い分けることが重要です。

目的で比較!「知識を与える」RAG、「人格を教える」ファインチューニング

両者の違いを、先ほどの「学生」の例えで考えてみましょう。

  • RAG: 学生(LLM)の能力はそのままに、試験の都度、**外部の参考書(知識)**を渡すアプローチ。特定の知識を問う質問に強くなります。
  • ファインチューニング: 学生(LLM)自体を専門学校に通わせ、**特定の話し方や思考様式(人格・スキル)**を身につけさせるアプローチ。モデルの根本的な振る舞いが変わります。

つまり、事実に基づいた回答が欲しいならRAG特定のキャラクターや文体で回答してほしいならファインチューニングが向いている、と考えると分かりやすいでしょう。

特徴RAG(検索拡張生成)ファインチューニング
目的最新・正確な知識の提供特定のスタイル・人格の学習
得意なこと事実に基づくQ&A、社内情報検索対話スタイル、文体模倣、専門用語
例えカンニングペーパーを渡す専門学校に通わせる

コストや手間で比較!RAGは比較的スピーディ

一般的に、ファインチューニングは大量の学習データ準備と、モデルの再学習に多くの時間と計算コスト(費用)がかかります。

一方、RAGは既存のLLMをそのまま利用し、参照するデータベースを構築・更新するだけで済むため、比較的低コストかつスピーディに導入・運用できる可能性があります。情報の更新も、データベース内の文書を差し替えるだけなので非常に簡単です。


セキュリティで比較!RAGは自社データを守りやすい

ファインチューニングでは、社内の機密情報などを学習データとして、外部のLLM提供事業者(OpenAIなど)に渡す必要があります。これには情報漏洩のリスクが伴います。

RAGの場合、機密情報は自社内の安全なデータベースに保管したまま、質問に関連する部分だけを都度LLMに渡すため、セキュリティリスクを低く抑えることができます。これは企業にとって非常に大きなメリットと言えるでしょう。


ハイブリッドという選択肢もある

実際には、RAGとファインチューニングを組み合わせる「ハイブリッドアプローチ」も非常に有効です。

例えば、「専門的な金融アドバイザー」という人格をファインチューニングで学習させ、そのAIが顧客と対話する際に、RAGで最新の市場データや顧客のポートフォリオ情報を参照する、といった使い方が考えられます。これにより、専門家らしい一貫したスタイルで、事実に基づいた的確なアドバイスが可能になります。

[関連記事:LLMのファインチューニングとは?RAGとの違いも解説 URL: https://www.google.com/search?q=https://nands.tech...]


RAGを導入する5つのメリット

RAGを導入することで、企業は具体的にどのような恩恵を受けられるのでしょうか。ここでは主要な5つのメリットをご紹介します。

メリット①:ハルシネーション(嘘)を大幅に減らせる

これが最大のメリットです。RAGは、LLMに「提供された情報源に基づいて回答する」という制約を課します。これにより、LLMが自身の不確かな知識から推測で回答することを防ぎ、事実に基づかない情報の生成(ハルシネーション)を劇的に抑制できます。

メリット②:最新情報や社内独自のデータに対応できる

参照するナレッジベース(データベース)を更新するだけで、AIの知識を常に最新の状態に保つことができます。これにより、日々変わる市場の動向や、社内だけで通用する専門用語・ルール、新製品の情報など、標準のLLMが知らない情報にも即座に対応可能です。

メリット③:回答の「根拠」が明確になり、信頼性が上がる

RAGシステムは、回答を生成する際に参照した情報源(例:「社内規定集のP.15を参照」)を同時に示すことができます。これにより、ユーザーは回答の正しさを簡単に検証でき、AIの出力に対する信頼性が飛躍的に向上します。なぜその答えになったのかが分かる「説明可能性」は、特に金融や医療など、規制の厳しい業界で不可欠な要素です。

メリット④:ファインチューニングより低コスト・短期間で導入できる可能性がある

前述の通り、モデル自体を再学習する必要がないため、ファインチューニングに比べて開発期間やコストを抑えられる傾向にあります。特に、PoC(概念実証)としてスモールスタートしたい場合に、RAGは非常に有効な選択肢となります。

メリット⑤:専門知識が必要な業務を効率化できる

膨大なマニュアルや過去の事例、法律文書など、専門家でなければ探し出すのが困難な情報をナレッジベース化することで、誰でも簡単に必要な情報へアクセスできるようになります。これにより、問い合わせ対応、資料作成、技術調査といった業務が大幅に効率化され、従業員はより付加価値の高い仕事に集中できます。


RAG導入の前に知っておきたいデメリットと注意点

多くのメリットがあるRAGですが、導入を成功させるためには、その限界や注意点も理解しておく必要があります。

デメリット①:検索の精度が回答の質を左右する

RAGは「Garbage in, garbage out(ゴミを入れれば、ゴミしか出てこない)」の原則が顕著に現れます。最初の「検索」ステップで、質問と無関係な情報や間違った情報を引っ張ってきてしまうと、どんなに優れたLLMでも質の高い回答は生成できません。ベクトル検索の精度を高めるためのチューニングなど、検索部分の設計が非常に重要になります。

デメリット②:参照するデータ(ナレッジ)の品質管理が重要

検索対象となるナレッジベースのデータが古かったり、間違っていたり、矛盾していたりすると、RAGシステムはそれを「正しい情報」として参照し、自信を持って誤った回答を生成してしまいます。参照させる情報の鮮度や正確性を維持するための、継続的なデータ管理(データガバナンス)の仕組みが不可欠です。

デメリット③:導入・運用には専門知識とコストがかかる

RAGはファインチューニングより手軽とはいえ、ベクトルデータベースの構築やデータの前処理、API連携など、一定の技術的専門知識が必要です。また、クラウドサービスの利用料やAPIコール料金など、運用コストも発生します。自社で全てを賄うのが難しい場合は、専門のベンダーに相談することも検討すべきでしょう。


国も示すAI利活用のリスク管理の重要性

RAGに限らず、生成AIの利活用には様々なリスクが伴います。デジタル庁は、行政機関向けにAIのリスク対策に関するガイドブックを公開しており、これは民間企業にとっても非常に参考になります。

利用形態(特定のサービスに組み込まれた状態や、大規模言語モデルを利用するためのWeb API形式等)やユースケースごとにテキスト生成AIの想定されるリスクは変わります。

出典: デジタル庁 「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」

RAGを導入する際は、こうした公的なガイドラインを参考に、自社のユースケースに合わせたリスク評価と対策を講じることが、安全な運用の鍵となります。


【業界別】RAGはビジネスでどう使われている?具体的な活用事例

理論だけでなく、実際にRAGがどのようにビジネスの現場で活躍しているのか、具体的な事例を見ていきましょう。

活用例①:社内ナレッジ検索・問い合わせ対応(全業種)

最も一般的で効果が出やすいのが、社内向けのQ&Aシステムです。人事規定、経費精算マニュアル、ITサポート情報、過去の議事録などをRAGのナレッジベースにすることで、従業員は知りたいことをチャットで質問するだけで、即座に正確な答えを得られます。これにより、管理部門への問い合わせが大幅に削減され、全社の生産性が向上します。

ユーザーストーリー:A社(東京都・IT)の場合

IT企業のA社では、複雑な社内ツールや申請手続きに関する問い合わせが情報システム部に殺到し、担当者が疲弊していました。そこで、社内の各種マニュアルやFAQをナレッジベースにしたRAG搭載のチャットボットを導入。従業員はボットに質問するだけで、関連マニュアルの該当箇所を引用した的確な回答を得られるようになりました。結果として、情報システム部への問い合わせ件数は70%削減され、担当者は本来のコア業務に集中できるようになったそうです。

活用例②:金融機関での顧客対応・情報提供

金融業界では、刻一刻と変わる市場データや、複雑な金融商品、規制に関する情報を扱うため、RAGのリアルタイム性と正確性が非常に有効です。顧客からの問い合わせに対して、最新のデータに基づいたパーソナライズされた情報を提供したり、融資審査の際に過去の膨大な案件データを参照して判断を支援したりする活用が進んでいます。

活用例③:製造業でのマニュアル検索・技術継承

製造業の現場では、何千ページにも及ぶ技術仕様書や保守マニュアル、過去のトラブルシューティング記録などが存在します。RAGを使えば、熟練技術者でなくても、トラブルの状況を入力するだけで、関連するマニュアルの該当箇所や過去の類似事例を瞬時に探し出すことができます。これにより、迅速な問題解決と、若手へのスムーズな技術継承が可能になります。

活用例④:医療現場での文献検索・診断支援

医療分野では、最新の研究論文や治療ガイドライン、医薬品の添付文書などをナレッジベースにすることで、医師の診断を支援するツールとしてRAGが活用されています。患者の症状を入力すると、関連する可能性のある疾患や、類似症例の論文を提示し、医師の判断材料を増やすことで、診断の精度向上に貢献しています。


自社でRAGを導入するための3つのステップ

「うちの会社でもRAGを導入してみたい」と考えた方のために、導入に向けた基本的なステップをご紹介します。

ステップ①:目的と範囲を決める(何のために、どのデータを使うか)

まずは、**「誰の、どんな課題を解決したいのか」**を明確にすることが最も重要です。例えば、「営業担当者が、外出先からでも簡単に見積もり作成ルールを確認できるようにしたい」といった具体的な目的を設定します。

次に、その目的を達成するためにどの情報を参照させるか(ナレッジベースの範囲)を決めます。「見積もり作成マニュアル」や「過去の類似案件の見積書」などが候補になるでしょう。最初は範囲を限定し、スモールスタートするのが成功の秘訣です。

ステップ②:技術的な準備(ベクトルデータベース等の環境構築)

目的とデータが決まったら、技術的な実装に移ります。主な作業は以下の通りです。

  1. データの前処理: 参照させるドキュメント(PDF, Wordなど)を、AIが読みやすい形式(テキスト)に変換し、適切なサイズのかたまり(チャンク)に分割します。
  2. ベクトル化とDB格納: 分割したチャンクを「埋め込みモデル」でベクトルに変換し、「ベクトルデータベース」に格納します。
  3. アプリケーション開発: ユーザーが質問を入力するインターフェースや、LLMのAPIと連携する部分を開発します。

これらの作業には専門知識が必要なため、自社での対応が難しい場合は、RAG構築サービスを提供しているベンダーに相談するのが良いでしょう。

ステップ③:評価と改善(継続的なメンテナンス)

システムが完成したら、実際に使ってもらい、その効果を評価します。

  • 質問に対して、期待通りの回答が返ってくるか?
  • 検索の精度は十分か?
  • ユーザーは使いやすいと感じているか?

これらのフィードバックをもとに、検索アルゴリズムを調整したり、ナレッジベースの情報を追加・修正したりと、継続的にシステムを改善していくことが重要です。AIシステムは「作って終わり」ではなく、「育てていく」ものだと考えましょう。国のAI戦略においても、社会実装の充実と、それに向けた人材育成や環境整備の重要性が強調されています。

AIの社会実装の更なる推進のため、(中略)、AI利活用を支えるデータの充実、AIを巡る人材や技術情報、データ取扱いルール等の追加的な環境整備、政府におけるAI利活用の推進、我が国が強みを有する分野とAIとの融合に力点を置いて取り組む。

出典: 内閣府 「AI戦略2022の概要」


RAGの進化と未来はどうなる?

RAGはまだ発展途上の技術であり、日々進化を続けています。将来的には、さらに高度な機能が期待されています。

より賢くなる「アドバンストRAG」

単純な検索・生成だけでなく、検索の前後に処理を加えることで、さらに精度を高める研究が進んでいます。例えば、検索結果の質が低い場合に、自動で質問の仕方を変えて再検索する「クエリ変換」や、検索結果をさらにLLMで吟味して並べ替える「再ランキング」といった技術です。

自律的に考える「エージェントRAG」

AIが自律的な「エージェント(代理人)」のように振る舞い、複雑なタスクを解決するために、計画を立て、複数のツール(RAGもその一つ)を使い分けるアプローチです。例えば、「競合X社の最新動向を調査してレポートを作成して」という指示に対し、エージェントが自らWeb検索ツールや社内データベース検索ツール(RAG)を使い分け、情報を収集・統合してレポートを完成させる、といった未来が考えられます。

テキスト以外の情報も扱う「マルチモーダルRAG」

現在は主にテキストデータが対象ですが、将来的には画像、音声、動画といった様々な形式の情報(マルチモーダルデータ)を横断的に検索・活用できるようになると期待されています。設計図の画像と、テキストの仕様書を組み合わせて回答を生成する、といった高度な応用が可能になるでしょう。


RAGに関するよくある質問(FAQ)

最後に、RAGに関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q1. RAGを導入すれば、AIは絶対に間違えなくなりますか?

A1. いいえ、絶対ではありませんが、間違いを大幅に減らすことができます。 RAGはハルシネーションを抑制する非常に強力な手段ですが、100%ではありません。参照する元データが間違っていればAIも間違えますし、検索がうまくいかない可能性もあります。重要なのは、AIを過信せず、最終的な判断は人間が行うという意識を持つことです。経済産業省のガイドラインでも、AIの出力の正確性を含めた信頼性の確保が重要であるとされています。

AI システム・サービスの出力の正確性を含め、要求に対して十分に動作している(信頼性)

出典: 経済産業省 「AI事業者ガイドライン(第 1.0 版)」

Q2. どんなデータでもRAGで使えますか?

A2. テキストデータであれば、ほとんどのものが利用可能です。 PDF、Word、PowerPoint、Webページ、データベースのテキストなど、様々な形式のデータが対象になります。ただし、データの品質が回答精度に直結するため、整理され、正確で、最新の情報であることが望ましいです。産業技術総合研究所も、生成AIシステムの品質マネジメントの重要性を指摘しています。

LLMを利用する生成AIシステムが開発者および利用者の期待された通りに機能、高い品質を維持することに貢献

出典: 産業技術総合研究所 「生成AIを用いたシステムのリスク低減と信頼性向上のために」

Q3. RAGの導入にはどれくらいの費用がかかりますか?

A3. 要件によって大きく異なります。 使用するLLMのAPI料金、ベクトルデータベースの利用料、開発を外部に委託する場合はその費用など、構成によって様々です。まずは小規模なPoC(概念実証)から始め、費用対効果を見極めながら段階的に拡張していくのが一般的です。

Q4. RAGで使うデータは、著作権の問題は大丈夫ですか?

A4. 利用するデータの著作権には注意が必要です。 社内文書など、自社が権利を持つデータを利用する場合は問題ありません。しかし、インターネット上の記事や他社の著作物を利用する場合は、著作権法に抵触しないか確認が必要です。文化庁は、AIと著作権に関する考え方をまとめており、一読をお勧めします。基本的には、情報を享受する目的での利用は著作権者の許諾が必要になる可能性があると考えられています。

一部の検索拡張生成(RAG)等で用いるための、生成AIへの入力用データ(中略)享受目的の存在を推認する上での一要素となります。

出典: 文化庁 「解説・「AIと著作権に関する考え方について」」

Q5. プログラミングの知識がなくてもRAGは使えますか?

A5. 利用するだけであれば可能ですが、構築には専門知識が必要です。 最近では、プログラミング不要でRAG環境を構築できるクラウドサービスも登場しています。しかし、自社の要件に合わせたカスタマイズや安定した運用を行うには、依然としてAIやインフラに関する専門知識が求められます。総務省の調査でも、AI導入における課題として、社内体制やコストが挙げられています。

AI事業者ガイドラインの活用課題として、社内体制や外部環境に起因する部分では、社内の認知や体制が追い付いていないという意見が多く(後略)

出典: 総務省 「AI事業者ガイドラインの普及・浸透及びAIガバナンスの取組状況等」


まとめ:RAGはAIを「信頼できるパートナー」にするための重要な一歩

この記事では、生成AIの精度と信頼性を飛躍的に向上させる技術「RAG(検索拡張生成)」について、その仕組みからメリット、活用事例までを詳しく解説してきました。

【この記事のポイント】

  • RAGは、AIに**外部の知識(カンニングペーパー)**を参照させることで、回答の精度を上げる技術。
  • LLMの弱点である**「知識の古さ」「ハルシネーション(嘘)」**を効果的に解決できる。
  • ファインチューニングに比べ、低コスト・短期間で導入でき、セキュリティ面でも有利な場合が多い。
  • 社内ナレッジ検索や顧客対応など、幅広いビジネスシーンで活用が進んでいる。
  • 成功の鍵は、**「検索精度」「参照データの品質管理」**にある。

生成AIは、私たちの働き方を大きく変える可能性を秘めた強力なツールです。しかし、その能力を最大限に引き出し、安全に活用するためには、その限界を正しく理解し、適切に補ってあげる必要があります。

RAGは、まさにそのための重要な技術です。AIを単なる「おもちゃ」や「調べ物ツール」ではなく、あなたの業務を深く理解し、正確な情報でサポートしてくれる**「信頼できるパートナー」**へと進化させる、はじめの一歩と言えるでしょう。

RAGで賢く、安全にAIを活用しよう

この記事が、あなたの会社のAI導入に関する不安を解消し、新たな可能性への扉を開くきっかけとなれば幸いです。まずは、あなたの身の回りの業務で「RAGが使えそうな場面はないか?」と考えてみることから始めてみてはいかがでしょうか。

次のステップ

  • RAGの導入について、より具体的に相談したい方 contact@nands,tech までお問い合わせください。

著者について

原田賢治

原田賢治

代表取締役・AI技術責任者

Mike King理論に基づくレリバンスエンジニアリング専門家。生成AI検索最適化、ChatGPT・Perplexity対応のGEO実装、企業向けAI研修を手がける。 15年以上のAI・システム開発経験を持ち、全国で企業のDX・AI活用、退職代行サービスを支援。