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RAGの精度向上は“知識設計”で決まる:オントロジー駆動の設計と運用

更新: 12/20
読了: 約43
字数: 16,954文字
RAGの精度向上は“知識設計”で決まる:オントロジー駆動の設計と運用

オントロジーとは

「オントロジーとは何か」を一言で言うと、人間が暗黙に理解している“言葉の意味と関係”を、コンピュータが扱える形に落とし込んだ概念の設計図です。哲学の世界で言う「存在論(存在とは何かを研究する学問)」を示す単語ですが、情報システム/AIの世界では知識の共有化や再利用の方法として研究開発が進み、対象世界をどの様に捉えた概念化を記述するものという意味で使われています。

実務で重要なのは、オントロジーが「難しい学術」ではなく、業務の言葉を揃えるための仕様だという点です。例えば、部署ごとに言い方が違う「顧客」「取引先」「会員」「ユーザー」を同一視するのか、契約主体が違うから分けるのか。こうした判断がRAGの検索精度・引用の妥当性・法務リスクに直結します。

また、オントロジーは単なる辞書ではありません。

  • 上位概念/下位概念(例: 「料理」→「カレー」)
  • 関係(例: 「製品」—「部品」—「互換」)
  • 属性(例: 「契約」には「締結日」「更新条件」)
  • ルール(例: 「個人情報」を含む文書は要マスキング)

を表現できます。

RAGの精度向上手法として、オントロジーを入れるメリットは3つあります。

  1. 検索漏れを減らす(同義語、略語、表記ゆれを構造で吸収)
  2. 誤引用を減らす(上位下位の誤マッチを抑制、関係性でフィルタ)
  3. 根拠提示を強くする(なぜその文書を引用したか”を関係で説明できる)

ここでいう「表記ゆれ」は、データクレンジング・名寄せの文脈とも同じです。単純な表記ゆれは機械処理で補正できても、概ね半数以上のデータは単純な機械処理では捕捉できない、という現場感があります。LLMや埋め込みモデルが進化しても、社内固有語彙(略語・製品コード・型番・支店名・規程番号)は“意味”の設計なしに安定しません。

このあとの章では、オントロジーの構築を「オブジェクトとリンクタイプ」「アクションタイプと関数」「インターフェース」など、実装に落とせる粒度まで分解し、RAGにどう組み込むかを示します。


生成 AIを入れる時オントロジー×RAGで何が変わるか

生成AIを業務に入れるとき、壁になるのは「モデルが賢いか」よりも、社内データをどう読ませるかです。多くの企業ではデータを軸にしたビジネス推進を行っていますが、データを活用する上で特に重要視されているのが、データ品質の向上と維持運用を行うデータマネジメントです。

RAG(検索拡張生成)は、学習データに加え社内文書などの外部データからの検索結果を組み合わせて回答を生成します。従来の生成AIは学習時点で知識が固定され、最新情報を反映しづらく、ハルシネーション(事実に基づかない情報を生成する現象)が起きやすい。RAGは参照情報を元にするため正確性が向上し、企業のナレッジベースと連携させることで専門性が上がります。

ただし、実装は簡単。しかし精度向上は茨の道です。

  • 昔の情報、結構残ってる(改訂履歴・最新規程の識別が難しい)
  • チャンキングで文脈が消える(条文/表/注記の参照が崩れる)
  • ベクトル検索の限界(専門用語弱い・文脈考慮できない)
  • 複雑な図表・画像の読み取りミス
  • 普通のRAGだと柔軟性がない

ここにオントロジーを合わせると、「検索前」「検索中」「検索後」の三段で制御できるようになります。

  • 検索前: ユーザー入力をオントロジーで正規化(同義語展開、用語辞書)
  • 検索中: 関係性で検索候補を拡張/制限(例: 製品→型番→互換部品)
  • 検索後: 引用根拠を“概念関係”で説明し、評価指標も概念単位にする

私の設計思想としては、RAGを1段でやり切るより、Triple RAG(3層検索構造)にしやすくなります。図書館で「棚→本→ページ」と絞る比喩の通り、Internal(社内知識)/Context(トレンド情報)/Knowledge(教育的文脈)を分けると、回答が安定します。


データマネジメント用語をわかりやすく解説

ここでは、オントロジー×RAGを進める上で頻出する用語を「用語集」として整理します(検定対応・G検定対応を意識して平易に書きます)。

  • 知識表現: 人間語を機械語に変換すること。オントロジー、知識グラフ、ルール、メタデータなどを使い、知識・情報を構造化し整理するモデル。
  • メタデータ管理とは何か: データのためのデータ。文書の版、作成者、適用範囲、機密区分、関連プロセスなど。
  • データクレンジング: 表記ゆれ、欠損、重複、誤記を整える。バリュー・エンジニアが考えるデータマネジメントの中心。
  • 名寄せ: 同一人物/同一企業/同一製品を統合する。やみくもに実施すると連携している別システムに影響が出たり、名寄せ後のデータ活用で品質問題が出る。
  • 粒度: どの細かさで概念/文書/チャンクを扱うか。粒度が揺れると検索も評価も崩れる。
  • 教師データ: 何が正しい検索/回答かを示すデータ。評価と改善に必須。

実務では「LLMが賢いから何とかなる」ではなく、記述する人によって記述の方法や記述の粒度がまちまちになると、知識の共有化や再利用が難しくなるという課題が出ます。だから、オントロジーは「標準化(ルール)」として効きます。


AIのおすすめコンテンツ

この章は“おすすめコンテンツ”として、オントロジー×RAGを学びながら実装に落とすための参照先を、実務タスクに沿って提示します。

また、外部の話題としては、2025のオントロジートレンドは「structured data and knowledge representation」と要約され、AI/機械学習の統合でデータ整理・分析が進む、とされています。つまり、“検索のためのオントロジー”から“運用のためのオントロジー”へ比重が移っています。

RAGの側でも、2025年は「RAGOps」「評価」「ガバナンス」がキーワードになりやすい。生成AIアプリ市場では、企業の生成AI活用が「自社データ連携・業務特化・エージェント活用」へシフトしている、という論調も見られます。

この文脈で、オントロジー×RAGは「業務特化」を支える中核になります。


関連コンテンツとして重要なのは、RAGの改善を“検索”だけに閉じないことです。検索強化のエージェントの手法、評価(オフライン/オンライン)、データガバナンス、法務・セキュリティも同時に組みます。

  • 検索用データベース(ベクトルDB、BM25、ハイブリッド)
  • アプリケーションの構築(プロンプト、ツール呼び出し、権限制御)
  • RAG改善の基礎(チャンキング/メタデータ/再ランキング)
  • AI活用における課題(情報漏洩、誤回答、監査)

オントロジー×RAGは、これらを“意味”で貫通させます。例えば、契約書の「秘密情報」「個人情報」「成果物」の概念をオントロジーで定義しておけば、検索結果に対して自動でマスキング/引用制限/注意喚起がかけられます。


  • 社内用語の体系化(一般的なオントロジーによる社内用語の体系化)
  • 重要技術の体系化(機能オントロジーによる重要技術の体系化)
  • 問い合わせ対応の自動化(CS/情シス/法務の一次回答)
  • 監査対応(根拠提示、引用ログ)
  • 教育・伝承(オントロジー技術による知識の体系化と伝承)

オントロジー×RAGは、単に「検索がうまくなる」ではなく、組織の言葉を揃える活動です。ここが腹落ちすると、データマネジメントとも自然に接続します。


初学者・ビジネスパーソン向けの検定対策講座

検定対応・G検定対応の文脈で言うと、オントロジー×RAGの理解は次の3点に集約できます。

  1. なぜ知識表現が必要か: LLMは文章の統計的パターンに強いが、組織固有の定義や境界線(例: 個人情報の範囲)を自動で守れない。
  2. RAGとは: 外部データ検索+生成で、最新性と根拠性を上げる。
  3. 統合すると何が起きるか: “言葉の定義”が検索と生成の両方に効き、ガバナンスが設計できる。

教育用途では、Triple RAGの比喩(棚→本→ページ)が刺さります。最初からフル検索するとパンクするので、段階的に絞る。


資格 向け認定プログラム

資格の話題は、実務では「人材計画」とつながります。オントロジー×RAGのプロジェクトに必要な役割は、必ずしも“博士級”ではありません。

  • ドメインエキスパート(用語定義の決定権を持つ)
  • ナレッジ編集者(規程/FAQの整備、粒度調整)
  • データエンジニア(収集、ETL、メタデータ)
  • ML/LLMエンジニア(RAGパイプライン、評価)
  • セキュリティ/法務(境界線の設計、NDA、個人情報)

E資格のような深いML知識が強みになる場面もありますが、RAGはむしろデータと運用が勝負です。


オントロジーの構築

オントロジーの構築は「百科事典を作る」作業ではありません。RAGに効く最小単位から始めます。

1) まず“ユースケース”でスコープを切る

例:

  • 規程検索(就業規則、情報セキュリティ規程、経費精算)
  • 製品FAQ(型番、互換、保証)
  • 法務(NDA、委託契約、個人情報)

スコープを切る理由は、概念が爆発するからです。オントロジーは無限に拡張できるので、最初から完全を目指すと止まります。

2) “概念”は3層で定義する

  • 用語(ラベル): 表記ゆれ、略語、英語
  • 定義(説明): 文章での定義(誰が読んでも同じ)
  • 関係(リンク): 上位/下位、関連、依存、例外

3) 粒度のルールを決める

粒度が揺れると検索と評価が崩れます。例えば「部署」概念を“部”までにするか“課”までにするか、製品を“シリーズ”で扱うか“型番”で扱うか。

4) 運用ループを最初から設計する

  • 新用語の追加フロー
  • 改訂時の差分
  • 廃止概念の扱い

RAG改善は継続です。教師データもオントロジーも、運用で育ちます。


実装に落とすとき、オントロジーは「ノード(オブジェクト)」と「エッジ(リンクタイプ)」です。

ノード例

  • Document(文書)
  • Clause(条項)
  • Product(製品)
  • Part(部品)
  • Process(業務プロセス)
  • Policy(規程)
  • Risk(リスク)

リンクタイプ例

  • is_a(上位下位)
  • has_part(構成)
  • relates_to(関連)
  • supersedes(改訂)
  • applies_to(適用範囲)
  • prohibits(禁止)

RAGに効くのは特にsupersedes(改訂関係)applies_to(適用範囲)です。昔の情報が結構残ってる問題に対して、改訂関係をグラフ化すると「最新版優先」がやりやすくなります。


アクションタイプと関数

オントロジー×RAGの“RAGOps”では、概念を使ってアクションを定義します。

  • Action: normalize_query(クエリ正規化)
  • Action: expand_synonyms(同義語展開)
  • Action: filter_by_policy(機密/個人情報でフィルタ)
  • Action: fetch_latest_revision(最新版の取得)
  • Action: cite_with_clause_id(条項IDで引用)

関数(Function)は、LLMツール呼び出しとして実装できます。例: ユーザーが「NDAの秘密情報って?」と聞いたら、クエリ正規化→NDA概念→該当条項検索→引用→回答生成。


インターフェース

インターフェースは2つあります。

  1. 人間とのインターフェース: 用語集、編集画面、承認フロー
  2. 機械とのインターフェース: RDF/OWL/JSON-LD、GraphDB、API

実務では「が読み込める仕様に変換する方法とは」「AIが読み込める仕様に変換する方法とは」が重要です。

  • 文書→チャンク→メタデータ付与
  • 用語→正規化辞書→エンベディング
  • 概念関係→グラフDB

この三点が揃うと、RAGの検索用データベースが“意味”で揃います。


意思決定の強化

オントロジー×RAGは、単なるFAQチャットボットではなく、意思決定の強化に効くときに価値が最大化します。

  • 製造: 不具合原因の切り分け(機能オントロジー)
  • 法務: 契約審査の一次レビュー(条項オントロジー)
  • 営業: 提案書の再利用(業界×製品×事例の関係)
  • CS: 問い合わせの一次解決率

意思決定に直結するほど、根拠提示(引用)が重要になり、オントロジーの価値が上がります。


サービスの概要

ここでは、オントロジー×RAGの「サービスの概要」をプロジェクトテンプレとしてまとめます。

  • 入力: 社内文書(PDF/HTML/Word)、FAQ、チケット、規程
  • 整備: データクレンジング、名寄せ、メタデータ
  • 構築: オントロジー(概念/関係/ルール)、知識グラフ
  • 検索: ハイブリッド(BM25+ベクトル)+グラフ拡張
  • 生成: LLM(根拠引用必須)
  • 評価: 検索評価+回答評価+安全性
  • 運用: 改訂対応、監査ログ、改善ループ

一般的なオントロジーによる社内用語の体系化

社内用語の体系化は、もっとも費用対効果が高い入口です。なぜなら、RAGの失敗原因の多くは「検索できない」ではなく「検索できたけど、別の意味だった」にあります。

例:

  • 「申請」= 稟議?ワークフロー?経費?
  • 「アカウント」= ID?契約?システム利用者?
  • 「顧客」= 個人?法人?契約主体?

一般的なオントロジー(上位下位+同義語+属性)だけでも、クエリ正規化と検索フィルタに使えます。


機能オントロジーによる重要技術の体系化

研究領域では「オントロジーに基づく機能的知識の体系的記述」のように、機能構造を表現して設計支援に使う例があります。実務でも、製造/設備/保守のRAGで刺さります。

例:

  • 設備(ポンプ)
  • 機能(圧送)
  • 故障モード(キャビテーション)
  • 対策(吸込条件見直し)

この構造を入れると、単語一致では拾えない“原因→対策”の連鎖が検索できます。


参考文献

  • 人工知能学会論文誌(オントロジー、Linked Data関連)
  • 生成AIが変える社会と教育(オントロジー研究史の概観)
  • 自社RAG記事(上記URI)

RAGとは

RAGとは何か。仕組みはシンプルで、主に以下の2フェーズです。

  1. 検索(Retrieval): ユーザー質問に関連する文書断片を検索
  2. 生成(Generation): 検索結果+質問を入力にLLMが回答を生成

しかし、企業でよくある課題は「検索」に集中します。

  • 検索対象が膨大で、ノイズが混じる
  • 文書の版管理が弱い
  • 用語が揺れる

ここでオントロジーが効きます。

  • 検索クエリを概念にマップ
  • 概念関係で検索空間を制御
  • 版(supersedes)で最新を優先

DataRobot・SAP

  • DataRobot: 生成AI機能やMLOps文脈で言及されることが多く、RAGの運用(評価、監視)と相性が良い発想です。
  • SAP: サプライチェーンや業務データの中核に居ることが多く、オントロジー×RAGで“用語統一”をしないと、検索対象の属性が揃いません。

Retrieval-Augmented AIの進化を支える最新技術

RAGは「LLMを賢くする」より「LLMを安全にする」方向にも進化しています。

  • 最新情報の反映(学習し直さない)
  • 根拠提示(引用)
  • ガバナンス(どの情報を出したかログ)

オントロジーは、この進化の中で“構造化データと知識表現”として位置づけられます。


AIで企業のセキュリティ運用を支援する

RAGの強みと活用例は多いですが、オントロジー×RAGで特に強くなるのはセキュリティ運用です。

  • 脆弱性対応手順(手順・例外・対象システム)
  • 権限申請(適用範囲、承認フロー)
  • インシデント対応(分類、初動、報告)

「Advisor」という言葉が示す通り、最終判断は人が行い、AIは根拠を添えて助言する。この形が企業で通りやすいです。


なぜ RAGが必要なのか

なぜRAGが必要なのか。

  • LLM単体は知識が固定
  • 社内固有の知識(規程、製品仕様、手順書)に弱い
  • 監査や説明責任がある

オントロジー×RAGにすると、RAGの必要性がさらに明確になります。“言葉の定義”が業務のリスクを左右するからです。


活用

ここからは実務の「活用術」を具体化します。

活用パターン1: 社内規程RAG

  • 目的: 情シス・人事・総務の一次回答
  • 課題: 版管理、例外条項、部署別適用
  • オントロジー: 規程→条項→適用範囲→例外

活用パターン2: 製品ナレッジRAG

  • 目的: CSの一次解決率改善
  • 課題: 型番/互換/後継機
  • オントロジー: 製品→型番→後継→互換

活用パターン3: 契約・NDA支援RAG

  • 目的: 相談の一次仕分け
  • 課題: 秘密情報/個人情報/著作権の境界線
  • オントロジー: 契約種別→条項→リスク→注意

法的に安全か、はRAG導入の最重要論点です。スクレイピングキーワード要件として「総合法律事務所」「弁護士」「法律事務所」「NDA」「著作権・個人情報・境界線」を含めます。

実務でのポイントは次です。

  • 学習(追加学習)ではなくRAG参照でも、社外秘/個人情報は漏洩リスクがある
  • 検索結果の引用は、著作権・個人情報の観点で取り扱いルールが必要
  • NDAの範囲は案件ごとに違うため、「案件」「顧客」「契約」概念の紐付けが必要

オントロジーで「個人情報」「秘密情報」「成果物」「第三者提供」などを概念化すると、検索結果に対するマスキングやアクセス制御をルール化できます。


次世代サプライチェーンセキュリティの全貌:2025-2026

サプライチェーンでは、部品表(BOM)や仕様変更、脆弱性情報が絡み、言葉の揺れが致命傷になります。

  • SAPのマスタ(品目、取引先)
  • 設計部門の仕様書
  • 品質部門の不具合報告

これらをRAGで横断するには、オントロジーで「品目」「部品」「互換」「後継」「ロット」「設備」などの概念統一が必要です。TechEd Japan 2025-2026のようなイベントで語られる“統合”は、結局ここに帰着します。


エンジニアが考えるデータマネジメント

データマネジメントの観点では、オントロジー×RAGは「データの意味」を揃える取り組みです。

  • Solution: 何を解くか(問い合わせ削減、監査)
  • Method: どう進めるか(用語→関係→評価)
  • Features: 何が強みか(根拠、最新版、境界線)
  • Work: どう運用するか(改訂、承認)

エンプラでの大規模組織では、特に「標準化」がコストに効きます。


知識表現:人間語を機械語に変換すること

知識表現の最小実装は、次のセットです。

  • 用語辞書(同義語、略語、英語、表記ゆれ)
  • 概念ID(ユニークキー)
  • 関係(is_a, relates_to, supersedes)
  • 文書メタデータ(版、適用範囲、機密)

これを「LLMが読み込める仕様に変換」して、検索・生成に組み込む。


図でわかるAI基礎講座

図でわかる。

  • 文章RAG: 文書→チャンク→ベクトル検索→生成
  • オントロジー×RAG: 文書+概念グラフ→正規化→検索制御→生成

3分間AI基礎講座として覚えるなら、

  • RAGは「探してから答える」
  • オントロジーは「言葉の定義と関係を揃える」
  • 併用は「探し方を意味で制御する」

メタデータ管理とは何か

メタデータは、RAGの精度向上手法の中で最も地味で最も効きます。

例:

  • 文書種別(規程/手順/FAQ)
  • 版(改訂日、施行日)
  • 適用範囲(部署、製品、地域)
  • 機密区分

オントロジーは、メタデータの値を“概念”として揃えます。部署名の名寄せ、製品シリーズの階層、地域(東京 関東圏、大阪 関西圏)なども概念化できます。


需要を背景に 国内版 インフラ戦略を加速

データセンターハブ計画のようにインフラが強化されると、企業はオンプレ/クラウド/エッジを併用しやすくなります。RAGの運用も「どこにデータを置くか」「どこで検索するか」が現実問題になります。

オントロジー×RAGは、データの配置が分散しても、概念IDで統合しやすい利点があります。


RAG 課題・機能のメリット(DataRobot生成AI機能のメリット)

RAG課題を整理すると、フェーズごとに分けるのが実務的です。

フェーズ1: 取り込み

  • PDFの崩れ
  • 画像/表
  • 版管理不足

フェーズ2: インデックス

  • チャンキングで文脈が消える
  • メタデータ欠落

フェーズ3: 検索

  • 専門用語弱い・文脈考慮できない
  • ベクトル検索の限界

フェーズ4: 生成

  • 引用漏れ
  • 根拠不十分

オントロジー×RAGは、特にフェーズ3を構造で救い、フェーズ4を根拠で補強します。


RAGの登場で生成AIのカスタマイズが劇的に変化

これまで業務特化生成AIは、ファインチューニングや転移学習が必要でした。しかしRAGの登場で、学習し直すことなく必要な情報をリアルタイムで検索し、最新情報にもとづいた回答が可能になりました。

ただし「検索」が弱いと、カスタマイズは失敗します。オントロジーを入れると、**“学習しなくても、意味で揃える”**という方向にシフトできます。


検索・拡張・Augmentation の活用例

拡張(Augmentation)を、ベクトル検索の追加だけで終わらせないのがポイントです。

  • 同義語展開(用語辞書)
  • 上位下位展開(is_a)
  • 関連展開(relates_to)
  • 改訂優先(supersedes)

これを「検索クエリ」や「再ランキング」に組み込みます。


RAGをとりあえず作ってみるのが良さそう

とりあえず作ってみるのが良さそう、は正しいです。RAGはプロトタイプが早い。

ただし、オントロジー×RAGでは「とりあえず」の中に必ず入れる最低限があります。

  • 用語辞書(最小50語でもよい)
  • 文書メタデータ(版、機密、適用範囲)
  • 評価セット(最低30問)

ここから改善ループに入ります。


ベクトル検索の限界・複雑な図表・画像の読み取りミス

失敗例を具体化します。

  1. 改訂前の規程を引用する
  • 原因: 版メタデータがない
  • 対策: supersedes関係をオントロジー化し最新版優先
  1. 条文の例外を落とす
  • 原因: チャンキングで注記が分離
  • 対策: Clause単位で構造化、引用単位を条項に
  1. 型番違いの手順を出す
  • 原因: ベクトル類似で近いが別
  • 対策: Product→Model→Revisionを概念にしてフィルタ
  1. 図表の数値を誤る
  • 原因: OCR/抽出ミス
  • 対策: 図表は別パイプライン、数値は構造化(CSV/DB)
  1. 社内略語が通じない
  • 原因: 埋め込みが弱い
  • 対策: 用語辞書+同義語展開

改善の基礎

普通のRAGだと柔軟性がない、と言われるのは「検索が一発勝負」だからです。

改善の基礎は、

  • メタデータ
  • クエリ正規化
  • 再ランキング
  • 評価

の4点。

オントロジー×RAGは、これらを“概念”で統一し、改善を回しやすくします。


検索を強化:エージェントの手法/他にも色/Discussion

検索を強化する方法として、AIエージェントの手法が使われます。

  • クエリを分解して複数回検索
  • ツールでグラフを辿って関連概念を取得
  • 引用をチェックして不足を再検索

Discussion(議論)として重要なのは「エージェントに任せすぎない」ことです。企業では監査と再現性が必要なので、オントロジーで探索範囲を制限し、ログを取ります。


RAGによる解決策

AI活用における課題は、技術より運用です。

  • 誰が正解を決めるか
  • 改訂にどう追従するか
  • 誤回答の責任をどう扱うか

RAGによる解決策は「根拠提示」ですが、根拠が古い/違う/範囲外なら逆効果。だからオントロジーで境界線を仕様化します。


検索用データベース

ここからコード例を示します。構成はハイブリッド+グラフです。

  • ベクトルDB: 文書チャンク
  • グラフDB: 概念と関係(オントロジー)
  • 検索: クエリ→概念→拡張→候補検索→再ランキング

サンプル実装(Python)

# pip install rdflib networkx rank-bm25 numpy
from rdflib import Graph
from rank_bm25 import BM25Okapi

# 1) オントロジー(RDF/TTL等)を読み込む
ont = Graph()
ont.parse("ontology.ttl", format="turtle")

# 2) 用語辞書(最小例)
SYNONYMS = {
    "NDA": ["秘密保持契約", "機密保持契約"],
    "個人情報": ["PII", "パーソナルデータ"],
}

def normalize_query(q: str) -> str:
    # 超簡易: 同義語を展開しやすい形にする
    return q.strip()

def expand_terms(q: str):
    terms = [q]
    for k, vs in SYNONYMS.items():
        if k in q:
            terms.extend(vs)
    return list(dict.fromkeys(terms))

# 3) BM25(キーワード検索): チャンクは事前に作っておく
chunks = [
    {"id": "doc1#c1", "text": "秘密情報とは、開示当事者が秘密であると指定した情報をいう..."},
    {"id": "doc2#c4", "text": "個人情報は、個人に関する情報であって..."},
]
corpus = [c["text"].split() for c in chunks]

bm25 = BM25Okapi(corpus)

def retrieve(query: str, topk=5):
    q = normalize_query(query)
    expanded = expand_terms(q)

    # 複数クエリでスコア統合(最小例)
    scores = [0.0] * len(chunks)
    for qq in expanded:
        s = bm25.get_scores(qq.split())
        scores = [a + b for a, b in zip(scores, s)]

    ranked = sorted(range(len(chunks)), key=lambda i: scores[i], reverse=True)[:topk]
    return [chunks[i] for i in ranked]

print(retrieve("NDAの秘密情報の定義は?"))

上は最小例です。実務ではここに、

  • ベクトル検索(埋め込み)
  • グラフによる概念拡張(上位下位/関連/改訂)
  • メタデータフィルタ(機密、版)

を加えます。


比較表1:通常RAG vs オントロジー×RAG

観点通常RAG(ベクトル中心)オントロジー×RAG
表記ゆれ埋め込み頼みで漏れやすい同義語・名寄せを仕様化
上位下位誤マッチしやすいis_aで制御
版管理メタデータがないと破綻supersedesで最新版優先
説明責任引用はできても理由が曖昧概念関係で説明可能
運用改善が属人化用語・概念の更新で改善

比較表2:検索方式(BM25/ベクトル/ハイブリッド/グラフ拡張)

方式強いもの弱いものオントロジーとの相性
BM25固有名詞、型番、条文番号言い換え、文脈同義語展開で補強
ベクトル言い換え、自然文型番、厳密条件概念IDで誤マッチ抑制
ハイブリッド両者の折衷実装/評価が難しい概念で評価しやすい
グラフ拡張関係性、版、依存初期整備が必要主役(関係をそのまま使う)

比較表3:導入アプローチ(PoC→MVP→運用)

フェーズゴール成果物オントロジーの最小要件
PoC価値検証30問評価、検索ログ用語辞書(50語)
MVP現場で使う権限、監査、改訂概念ID+版関係
運用改善継続教師データ増加承認フロー+ルール

チェックリスト1:オントロジー×RAGの要件定義

  • 目的は意思決定の強化か、問い合わせ削減か
  • 対象文書の一覧(規程、手順、FAQ)
  • 版(改訂)情報が取れるか
  • 機密区分・個人情報の扱い
  • 用語集(定義・同義語・略語)
  • 評価セット(質問、正解根拠)

チェックリスト2:運用(RAGOps)

  • 誤回答の報告導線(UIでフィードバック)
  • 改訂時の再インデックス手順
  • オントロジー更新の承認者
  • 引用ログの保存
  • “出してはいけない回答”のテスト

具体的事例1:NDA条項RAG

NDA(秘密保持契約)の条項をRAGで引くユースケースは、法務がボトルネックになりやすい領域です。

  • 典型質問: 「秘密情報の定義は?」「例外は?」「存続期間は?」
  • 失敗: 別契約(委託契約)の条文を混ぜる

オントロジーでは、

  • 契約種別(NDA/委託/売買)
  • 条項タイプ(秘密情報/例外/期間)
  • リスク(第三者提供/個人情報)

を定義し、検索をフィルタします。


具体的事例2:SAP周辺の品目・部品RAG

SAPの品目マスタと、設計仕様書/保守手順書/不具合報告を横断して検索するケース。

  • 失敗: 類似品番を誤って引用
  • 対策: Product→Part→互換→後継 をオントロジー化

具体的事例3:CS向け製品FAQ

CSの問い合わせは「言い換え」「略称」「古い型番」が混ざります。

  • 失敗: 後継機の手順を旧機に適用
  • 対策: 型番の階層と改訂を概念化し、適用範囲で制御

具体的事例4:情報システムの申請ナレッジ

権限申請や例外対応は、規程と現場運用の差分が大きい。

  • 失敗: 規程だけ答えて現場で使えない
  • 対策: Policy(規程)と Work(運用手順)を分け、適用条件をリンク

具体的事例5:教育・伝承(オントロジー技術による知識の体系化と伝承)

ベテランの暗黙知(「こういう時はこの設備を疑う」)をRAGで返すには、文書だけでは弱い。

  • 対策: 機能オントロジーで原因→対策の構造を入れる

FAQ

FAQ1

Q. オントロジー×RAGは、通常のRAGと何が決定的に違う?

A. 通常のRAGは「文書をベクトル化して近いものを取る」が中心で、言葉の揺れや上位下位の誤りを“モデルの賢さ”に頼りがちです。オントロジー×RAGは、用語の定義・同義語・上位下位・改訂関係などを仕様化し、検索クエリの正規化、検索範囲の制限、最新版優先、根拠説明を“設計”で実現します。結果として、エンタープライズで問題になる監査・説明責任に強くなります。

FAQ2

Q. オントロジーの構築はどこから始めるべき?

A. 全社辞書のような巨大スコープから始めると失敗します。まずは「問い合わせが多い」「誤回答がリスクになる」ユースケースを1つ選び、用語辞書(同義語・略語)と、改訂関係(supersedes)、適用範囲(applies_to)から作るのが現実的です。最小でも“概念ID”を持たせ、運用で増やす前提にします。

FAQ3

Q. 既存のデータクレンジング・名寄せと何が違う?

A. データクレンジング・名寄せは主に「同一を揃える」「表記ゆれを直す」作業です。オントロジーはそれに加え、上位下位、関係、ルール(例: 個人情報ならマスキング)まで表現します。RAGでは、検索時にこの構造を使って候補を拡張/制限できるため、単なる名寄せよりも“検索の再現性”が上がります。

FAQ4

Q. ベクトル検索の限界は、モデルを変えれば解決する?

A. 一部は改善しますが、組織固有語彙(略語、規程番号、型番)や、上位下位の誤マッチ、改訂の優先などはモデル変更だけでは安定しません。モデルを変えると挙動も変わり、評価が振り出しに戻りがちです。オントロジーで“意味の仕様”を固定しておくと、モデル変更にも耐性が出ます。

FAQ5

Q. チャンキングで文脈が消える問題はどう扱う?

A. 条文や手順書など、構造がある文書は「Clause(条項)」「Step(手順)」の単位で構造化し、その単位で引用する方が安全です。単純に文字数で分割すると、例外や注記が別チャンクに逃げます。オントロジーで文書構造をノード化し、引用単位を固定すると、文脈消失による誤回答が減ります。

FAQ6

Q. 法的に安全か(著作権・個人情報・NDA)の境界線はどう設計する?

A. まず「個人情報」「秘密情報」「成果物」「第三者提供」などをオントロジー上の概念として定義し、文書メタデータ(機密区分、契約適用範囲)と結びます。その上で、検索結果に対してマスキング、引用禁止、要注意喚起などのルールを適用します。TMI総合法律事務所のような総合法律事務所の見解を参照しつつ、最終的には自社の規程と契約類型に合わせてルール化するのが実務です。

FAQ7

Q. オントロジーはRDF/OWLで作るべき?それともJSONで十分?

A. 最初はJSONや表計算で概念ID・同義語・上位下位を管理し、運用が回るようにするのが優先です。関係が複雑になり、推論や連携が必要になった段階でRDF/OWLやGraphDBに移行するのが現実的です。重要なのは形式より、粒度の統一と承認フローです。

FAQ8

Q. Triple RAG(3層検索構造)は必須?

A. 必須ではありませんが、社内ナレッジだけで答えが閉じない質問(トレンド、規制、教育的背景)を扱う場合に有効です。Internal(社内)/Context(外部トレンド)/Knowledge(教育)を分けると、引用元の混在が減り、監査もしやすくなります。図書館の「棚→本→ページ」のように段階的に絞る設計です。

FAQ9

Q. RAGの評価はどうやる?

A. 検索評価(正しい根拠が上位に出るか)と回答評価(正しく答えているか)を分けます。オントロジー×RAGでは、質問と正解根拠を“概念ID”で管理すると、表記ゆれに引っ張られず評価が安定します。最低でも30問の評価セットを作り、改訂や辞書追加のたびに回帰テストします。

FAQ10

Q. エンタープライズでよくある課題は何?

A. 権限(誰が何を見られるか)、版管理(昔の情報が残る)、監査(根拠提示とログ)、部署ごとの言葉の違い、が典型です。RAGでよくある課題として、検索のノイズと誤引用が続くと現場の信頼が落ち、改善予算が止まります。オントロジーで“言葉と範囲”を仕様にし、運用で育てることが重要です。

FAQ11

Q. 中堅中小企業向けでもオントロジーは必要?

A. 必要度はユースケース次第です。FAQ程度なら軽い辞書で足りますが、規程・契約・製品型番など“間違えると事故”の領域では、最小限のオントロジー(同義語+改訂+適用範囲)があるだけで精度と安全性が上がります。大規模な知識グラフを最初から作る必要はありません。

FAQ12

Q. 料金や費用相場はどれくらい?

A. 本記事の提供データには、比較記事の存在はありますが、費用は「文書整備(メタデータ/版/機密)」「オントロジー整備(用語/関係/承認)」「評価と運用(RAGOps)」の工数配分で決まるため、まずスコープを1業務に絞ったPoCで見積もるのが現実的です。

FAQ13

Q. DataRobotのような製品はどこで効く?

A. RAGは“作る”より“回す”が難しいので、評価・監視・運用の仕組みが重要です。DataRobotのようにMLOps/運用を支える思想は、RAGOpsにも応用できます。具体的には、評価指標の継続計測、データ更新時の回帰テスト、モデル変更時の影響分析などで効きます。

FAQ14

Q. SAP環境にRAGを入れるときの注意点は?

A. SAPはマスタの定義が強い一方、周辺にExcel・PDF・メールが散在しがちです。品目や取引先の名寄せ、型番の階層、適用範囲(工場/地域)を概念として揃えないと、検索結果が混線します。オントロジーでマスタと非構造文書を繋ぎ、検索フィルタに使うのが現実的です。

FAQ15

Q. 東京 関東圏と大阪 関西圏のような地域差はRAGにどう影響する?

A. 地域によって規程の適用、販売製品、サポート窓口が違う場合、同じ質問でも正解が変わります。オントロジーで「地域」を概念化し、文書メタデータの適用範囲(applies_to)として持たせると、検索段階で地域フィルタができ、誤回答を減らせます。


まとめ

オントロジー×RAGは、RAGの精度向上手法の中でも「最後に効く」ではなく、最初に入れると後工程が楽になる設計要素です。

  • RAGは実装は簡単、しかし精度向上は茨の道
  • その道を短くするのが、用語・関係・版・適用範囲を揃えるオントロジー
  • 検索拡張生成を“意味で制御”し、根拠提示とガバナンスを強化できる

次のアクションとしては、

  1. ユースケースを1つに絞る
  2. 用語辞書+版メタデータ+評価30問を作る
  3. ハイブリッド検索+概念フィルタを入れる
  4. 運用(RAGOps)を回す

この順で進めるのが、企業での再現性が高い進め方です。


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著者について

原田賢治

原田賢治

代表取締役・AI技術責任者

Mike King理論に基づくレリバンスエンジニアリング専門家。生成AI検索最適化、ChatGPT・Perplexity対応のGEO実装、企業向けAI研修を手がける。 15年以上のAI・システム開発経験を持ち、全国で企業のDX・AI活用、退職代行サービスを支援。